『TRIP 9:13』 2014年、東京都練馬区。 築25年のアパートで暮らし 470円で1日を乗り切り、空腹に耐える日々。 朦朧とする意識を奮い立たせ 這うように向かった先は台所。 何か口に入れるモノはないものかと 棚を開け視界に飛び込んできたのは 以前、駅前の商店街の福引で当てた1缶の粉ミルク。 当時はその使い道の無さに困惑したが 今は飢えという砂漠に浮かんだオアシスにしか見えない。 人生何時何がどうなるか分からないものだ… 溢れる唾を、渇いた喉に押し込み 息を殺し、胸の高鳴りを抑え 少しの間だけ幼少時代を追想し 半透明のビニール製のフタをそっと空ける。 一面に広がるその純白の世界は 何処か懐かしく、母の匂いがした。 『しかし、いい歳して粉ミルクって…』 粉ミルクとの間に一瞬立ちはだかった自尊心も 雑草すら美味しく食えそうなこの飢えの前には無力だ。 一口舐めて、男は小声ながらも力強く呟いた。 『粉ミルク……いける』 ![]() |